【明日の夢を今日夢見る24】


家を飛び出すと、
「たぶんこっちです」
とカカシ先生が指差した。
初めて未来の自分に会った時に、だいたいどのあたりが扉になっているか予測をつけていたのだという。
さすが上忍。俺なんてそんなことを思いつきもしなかった。
術のことを知っているのだし、自分の考えることだからある程度は予測しやすいんですよと照れていたけど、冷静に分析できるのは能力の高い証拠。やっぱりカカシ先生はすごい忍びなんだと思う。
促されるままについて行くと、結界にぶち当たった。カカシ先生の予想通りだ。
結界と言っても目に見えず、なんとなくぼやけている気もするけれど普通の風景にしか見えない。結界そのものと、近づく人間にその場所に対する興味を失わせる幻術がかけてあり、ここだと声をかけられなければ通り過ぎていたところだ。
カカシ先生はじっとその場所を眺めたのち、振り返った。
「これなら破らなくても通れます」
カカシ先生が印を結んでから背中を押してもらうと、中忍の俺でも難なく通れた。カカシ先生自身は、カカシさんと同じチャクラだから何もしなくても簡単に通れるらしい。
結界内に入って二、三歩進むと、佇む人影が見える。その目の前に空間をねじ曲げたような穴があった。
ぱりぱりと小さな音が聞こえる。
「扉が開いてる」
カカシ先生が呟く。
それでは本当にもう帰る寸前だったのだ。少し泣きそうになったけど、せめて顔を見るだけでも間に合って良かったと思った。
しかし。
カカシさんは辛そうに扉を見つめたまま溜息をつくと、踵を返してこちらに向かって歩いてくる。
そして、ここに立つ俺たちに初めて気づいて、はっと立ち止まった。
「おい。それ、もう閉じかけてるじゃないか! まさか帰らないつもりか!」
カカシ先生が食って掛かり、胸倉を掴んだ。
カカシさんは鬱陶しいと言わんばかりに眉間に皺を寄せ、掴まれた腕を簡単に外す。沈黙は、カカシ先生が指摘したとおりなのだと証明していた。
「カカシさん、どうして?」
どうして帰らないなんて。
「ここでやるべきことがあったんです。だから術を使って来た」
カカシさんは困ったように笑いかけてくる。その笑顔を見るのがなぜか悲しかった。
まだやるべきことは終わってない。それが大事なことだということはわかる。
でもあんなに『イルカ先生』に会いたいと思っていたはずじゃないか。生きていけないとまで言っていたのに。それなのに。
「でも、今戻らないと帰れなくなるって聞いてます!」
「わかってます。……でも、何もできないまま帰るくらいなら過去に来た意味がないです。それくらいなら、いっそこのままここで……」
最後の方は良く聞こえなかった。暮らしていくのもいいかもしれない、と呟いたように聞こえた。それはとてもとても小さい声だったので、ただの憶測でしかないけれど。
でもそれは嫌だと思った。
思わずカカシさんの腕に縋りついていた。
「カカシさんっ。帰ってあげてください! お願いします」
「そんなに俺は邪魔ですか? 傷つくなぁ」
少し茶化したような言い方。
そうじゃない。何と言えばわかってもらえるだろう。
カカシさんのためじゃなく、俺自身のために帰って欲しいと願っているんだ。
「違います、そうじゃないんです。きっと……きっと俺は寂しがってます。だから……!」
あなたが側にいないと、未来の俺は寂しくて泣いて過ごさなくちゃいけない。だって本当は昔から一人ぼっちは大嫌いだったのだから。
うまく言えない。またいつものように言いたいことも言えなくて終わってしまうんだろうか。
伝えられないもどかしさに、袖を握りしめる手が震える。
カカシさんはそんな俺をじっと見つめている。
馬鹿な奴だと思われている、きっと。わがままを言って困らせる子供だと。
カカシさんの大事なことと自分の勝手な望みを秤にかけろと言っているのだから。
しかし、カカシさんは泣きそうに顔を歪ませ、その顔のまま笑って頷いた。
「ええ、わかってます。わかってますとも。寂しがりなあなたを一人になんてしないよ。絶対ね、帰るから」
そう言ってぎゅっと抱きしめられた。


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2005.09.24


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