【愛は噂や嘘よりはやく走れない11】


カカシは、ああやっぱりね、と言いたげな表情で溜息をついた。
「俺が言ってる好きは、イルカ先生とお付き合いしたい意味の『好き』なんです。だから俺と付き合ってもらえますか?」
意味を理解するのに時間がかかった。
「え? お付き合いしたいって、いつも飲みに付き合ってますよ?」
イルカなりに考えて答えた。
しかしカカシはその答えをお気に召さなかったらしく、ガックリと肩を落とした。
「そ、そうじゃなくてですね。俺の恋人として付き合ってくださいって言っているわけで」
「ええっ?」
イルカは驚きのあまり硬直した。
「もしもし、イルカ先生?」
いつまで経っても黙ったままのイルカに不安に思い、カカシは恐る恐る問いかけた。
呼びかけにイルカはようやく気づいてはっと正気に戻る。
「でも、だって、カカシ先生には彼女がいるのに……」
「は? それどこのカカシの話ですか!?」
カカシはすっとんきょうな声を上げた。
どこのカカシって、今現在知り合いのカカシは目の前にいる人物しかイルカは知らないわけだが。
あれ? それじゃあやっぱり元彼女とはヨリは戻ってなかったのかな。
イルカはそうならば嬉しいと思った。
「彼女っていったいなんのことですか」
「いえ、元彼女とまた付き合い始めたのかと思っていたんです」
だってあんな綺麗な人だったから。
それにアオイはカカシのことは何でも知っているという態度だった。三代目に呼ばれたことも知っていた。だからきっとそうだと思い込んでいた。
でもそうではなかったらしい。カカシの表情がそう物語っていた。
イルカに告げたことは間違いだったらしいけれど、あれはカカシとまた付き合いたい一心からの言葉だったのだろうか。
そう考えると今までの彼女の仕打ちも仕方のないことかもしれないとイルカは思う。
しかし、まだまだ話は続きがあった。
「元彼女!? 誰ですか、それ」
カカシはさらにわけがわからないという表情で問い返す。
「誰って、アオイさんが……」
「アオイって……ああ、あのくノ一?」
カカシが心底嫌そうに眉を顰めた。
「しつこいんですよね。こっちは付き合うつもりなんてないってはっきり言ってるのに、まとわりついてベタベタ触ってくるから気持ち悪くて困ってたんですよ。最近遠くへ行ってるって聞いてたから安心してたのになぁ」
「え。だって昔付き合ってたんじゃあ」
「まさか! 冗談でしょ? ああ、しつこく周りをウロウロしてたから誰かが勘違いしたのかもね」
カカシは迷惑そうに片目を眇めている。
「そうだったんですか……」
なぁんだ、そうだったのか。
根も葉もない噂だったのか。
みんなが言っていたから信じていたけど、きちんと本人に事実を確認するべきだった。ただの噂に振り回されて恥ずかしい。
イルカはそう考えて顔を赤らめた。
「アオイって女が何かしたんですか」
カカシの追求に、イルカは困った。カカシに言うのは告げ口をするようで躊躇われる。
「いえ、俺の早とちりみたいで。なんでもないんです」
「……まあ、何があったのかなんとなく想像つきますが」
「え!」
カカシにはなんでもお見通しなのだろうか。
自分の勘違いやカカシへの想いまで筒抜けだったら、この上もなく恥ずかしい。
イルカは顔を赤くして俯いた。
「とりあえず、それはまた後で詳しく話を聞くとして。今はさっきの返事をください」
いつもなら決してイルカを急かしたりしないカカシが、余裕のなさそうな真剣な表情で迫ってくる。いつのまにかイルカの手はぎゅっと握りしめられていた。
「さっきの返事?」
なんだったろうとイルカは首を傾げた。
だいたい何の話をしていたのだったか、もういろいろありすぎて混乱している。
「……だから、俺と恋人として付き合ってもらえるかどうかの返事ですよ!」
ちょっと泣き出してもおかしくない勢いのカカシだった。


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2006.11.25


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