恋人として付き合う。
イルカはそっと口の中で繰り返した。
ようやく意味を理解して、かーっと頭に血が上る。耳まで真っ赤になった。
「あの、それは本気ですか?」
「もちろん本気です!」
まさかカカシに交際を申し込まれるなど思ってもみなかったイルカは、冗談なんでしょう?という思いを込めて聞いてみたのだが、あっさり肯定された。
カカシは自分を好きなのだという。
もしかしてこれも三代目に頼まれたから? いや、あれは嘘だとカカシ本人が言っていたから違うのだろうか。
イルカは混乱する。何を信じて良いのかわからなくなっていた。
そこへタイミングよく、いや悪くと言うべきか、呼びかける声があった。
「イルカや〜」
「あ、三代目」
忍びの長らしからぬ足取りでよろよろと火影が近づいてくる。
さっき部屋を飛び出してきたので心配で探してくれたのだろう。申し訳ないことをした、とイルカは思った。
側にいるのがカカシとわかった途端、三代目の顔色が変わる。
「カカシ! お主はまた性懲りもなく!」
老いたりといえど木ノ葉の里の頂点を極める火影その人。気の弱い者なら鋭い眼光だけで震え上がっただろう。
「その手を離さんか。近づくでない。イルカが迷惑しておろう」
手にした杖でびしりと指されるが、カカシは表面上は何食わぬ顔で答える。
「そんなのはイルカ先生が決めることで、三代目が決めることじゃないでしょうが」
「なんじゃと?」
まさに一触即発。竜虎相争うかという時に、一人状況を理解できていない者がいた。イルカだ。
どうして三代目はカカシに怒っているんだろう。しかも近づくなとはあまりにも的はずれな忠告ではないか。
もしかして三代目も変な噂を聞いてしまったのかもしれない、自分のように。
とりあえず今の状況からすると、三代目がカカシに自分の面倒を見るよう命令したとはとても思えなかった。それだけはようやく理解できた。
よかった、それじゃあさっきの話は本当だったんだ。
ほっと安堵すると共に、おろおろし始める。
好きな人から告白されたことを思い出したわけだから無理もなかった。
そうだ。ちゃんと返事をしなくちゃ。
イルカはカカシの上着の裾を握りしめ引っ張った。
「あのっ」
カカシは先程まで殺気立っていた瞳を柔和に細め、尋ねる。
「どうしました、イルカ先生?」
「イルカや。何か言いたいことがあれば何でも言ってよいのじゃぞ」
三代目も好々爺然と笑いかけてくる。
二人に優しく見守られる中、イルカは口を開いた。
「あの、俺も前からカカシ先生のことが好きでした」
●next●
●back●
2006.12.09 |