【愛は噂や嘘よりはやく走れない13】


その一言で、両者の差は歴然となった。
「本当ですか!」
「それは本当なのかっ」
感動に打ち震えるカカシと、衝撃のあまりふらつく火影。
特に後者は心臓は大丈夫なのか、と心配しそうなくらいだった。
「イ、イルカがカカシのことを好きだったとは……」
まるで世も末で希望も何もないといった風情で打ちひしがれている。
その姿があまりにも痛々しくて、カカシにぎゅっと抱きしめられたままイルカは「じっちゃん……」と呟いた。
それを聞いて、三代目ははっと顔を上げる。
「イルカよ。お前がこんな碌でもないカカシのことを好きだと言うなら許すから。頼むから『嫌い』などと言わないでくれんか」
大嫌いとイルカに言われたのがよほど堪えたのか、火影は縋るような目でイルカを見つめる。
「碌でもないは余計でしょ」
「五月蠅い! お主は黙っとれ」
カカシのことは、にべもなく一喝する。
「そんな、嫌いになるだなんて……さっきは心にもないことを言ってごめんなさい」
申し訳なさそうにしゅんとなるイルカに、三代目は安堵の笑みを漏らした。
「そ、そうか! それならよいんじゃ」
満足そうに頷く。
「イルカが幸せならわしも嬉しい」
「三代目はイルカ先生のことしか考えてませんからねぇ。可愛がるのもイルカ先生だけ」
カカシが嫌みたらしく言うと、イルカはとんでもないと首を振った。
「そんなこと! 三代目は里のみんなのことを全員自分の子供のことのように可愛く思ってらっしゃいます!」
「どうだか……」
カカシの否定的な態度に、イルカは三代目に詰め寄った。
「三代目はカカシ先生のこと、可愛いと思ってますよね?」
三代目は長い沈黙の後、こほんと咳払いして答えた。
「……イルカをかっさらっていっても、抹殺するのを我慢するぐらいには可愛いと思っておるよ」
「微妙ですね、それ」
呆れたようにカカシが言ったが、それは三代目なりの譲歩だったらしい。
殺されないだけありがたいと思えという脅しでもあったが、今後付き合ってもいいという許しでもあった。
その微妙な親心はなかなか伝わりにくいものだったが、イルカは嬉しそうにカカシを振り返った。
「ほら、三代目はいつだってみんなのことを考えてますよ」
特にイルカのことをね。
カカシはこっそり呟いた。
だが、悪くはない。
火影が認めたと里中に広まれば、今後親衛隊もちょっかいを出してこれなくなるだろう。もし何か妨害があった場合『わしが我慢しておるのにお主らが我慢できないとはどういうことじゃ』と怒り狂うに決まっているのだから。
噂には振り回されたけれど、イルカとの仲が進展したという意味では感謝しないといけないな、とカカシはにんまりと笑った。


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