「カカシ先生はもうお気づきかもしれませんが、実はうちは貧乏なんです」
やっぱり!
「親の残した借金がありまして。いえ、保証人になっただけだったのですが……」
「えっ、それじゃあイルカ先生が無理して返すことないじゃありませんか!」
保証人になった借金をその子供が馬鹿正直に払っているだなんて驚きだ。そんなのは知らないで通せばいいものを。
「ええ、それはそうなんですが。早くに親を亡くしたので、そんなものでも残っていると愛着が湧いてくるというか……できるだけ自分で返したいんです」
「そんな……」
借金が親の遺産だなんて。
しかし、それがイルカ先生の望みだと言われれば、俺が払いましょうと言うこともできない。
「俺が貧乏でこんな生活をしているのを目の当たりにすると、みんな離れていきました。だからカカシ先生も……」
「何言ってるんですか!俺は何があっても嫌いになったりしないって誓ったじゃありませんか!」
「カカシ先生……」
たとえタンポポを食べていようが、お風呂のお湯が少なかろうが、いったいこの想いに変わりがあるだろうか。
「イルカ先生さえ俺を好きなら、貧乏だろうが何だろうが関係ありません。俺の恋人になってください」
手をぎゅっと握りしめると、
「はい。こんな俺で良ければ」
と、はにかんだ笑みで返事が返ってきた。
これで晴れて恋人同士だ。じーんとその喜びを噛みしめる。
「それじゃあ、もう電気を消しましょうか」
「えええええーっ」
そんないきなり?そりゃあ期待してなかったと言えば嘘になるけど。いや、そんなうまい話があっていいものか!
おろおろと動揺していると、にこやかにイルカ先生が言った。
「電気代がもったいないから、うちはいつも消灯は九時前なんですよ」
「そ、そうなんですか……ははは」
電気代か。そうだよね。
自分でもそんなうまい話があるかって思っていたくせに。ちょっとだけ涙が出そうだった。
その日の夜は、食べた天ぷらがあたったのか、はたまた罰が下ったのか、腹痛と嘔吐と下痢でうんうんとうなされ通しだった。


翌日は胃を押さえながら集合場所へと向かった。
待っている間にサクラは7班の身上調査をしていたらしい。好きな言葉だの趣味だのと、いろいろ聞いてまわっていた。
「カカシ先生の嫌いな食べ物って何?」
「……(タンポポの)天ぷら」
うっぷ。
その単語を言っただけで、口の中に油の臭いが上がってくる錯覚に陥る。気持ち悪い。
「天ぷらね」
サクラは小さな手帳に何かをメモっている。が、知ったことじゃない。この胸焼けに比べたら、どうでもいいことだ。
「カカシ先生、天ぷら苦手なのかぁ?」
「ああ、そうだよナルト」
お前はいいよな、何の苦労も知らずに。このタンポポ仲間め。
「イルカ先生なんて大好きなのに。シシシ」
ひぃ、大好きなのか!
「でも、油がもったいないからってあんまり天ぷらとか食べられないんだぜ?カカシ先生は贅沢だってばよ」
「え」
それじゃあ、もしかしてあれはイルカ先生なりの最高に贅沢な食事だったのか。
俺への精一杯のもてなし。その気遣いにじーんときた。
これって、もしかしなくても愛だよね?
「ナルトぉ!」
「わっ、なんだなんだ?」
「ありがとうな」
金髪をぐしゃぐしゃに掻き回すと、訳がわからないなりに何かを察したのか大人しくされるがままだった。
もう胸焼けすら愛おしかった。しかも『油がもったいない』と言えば、もう天ぷらは出されないだろうから安心だ。傾向と対策もばっちり。
少し浮かれた気分でその日は任務をこなせた。


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