俺は忍びで、普段は任務がある。もちろんイルカを任務に連れて行くわけにはいかない。いつも留守番だ。
最初は誰にも見えないから大丈夫です、とイルカは言い張ったが、任務でちょろちょろされると俺の気が散るから駄目だと言うと大人しく頷いた。
「俺は今から任務に行ってくるから、イルカは留守番しているんだよ」
「はいっ、任せてください」
イルカはチャーシューが出せないことを気に病んでいるのか、とにかく俺の言うことは守ろうという意気込みがいつも感じられる。
別によいのに、と思う。あんないい加減な願いごとを懸命に叶えようとするイルカに、少し罪悪感すら感じる。それを誤魔化そうと別のことを考えた。
「あ、今日は頼んでおいた荷物が届くんだった」
そういえばそうだった。ふいに思い出す。
急な任務が入って家には居られないというのに、困った。タイミングが悪いと溜息をつく。
するとイルカが得意げに、
「俺がいますから、荷物は受け取っておきます!」
などと言う。
「だって、イルカは人には見えないでしょ。それじゃあ荷物は受け取れないよ?」
笑ってからかうと、イルカはぶんぶんと首を横に振る。
「大きくなれば、ちゃんと見えるようになります!」
と言い出した。
大きくなるって?と首を傾げていた時。
ぼふん。
煙と共に現れたのは、一人の男。背は俺とさほど変わらなかった。
うわぁ。ビックリしたビックリしたビックリした!
心臓が早鐘を打つ。
忍びだから変化なんて慣れているはずなのに、どうしてこんなにも動揺してしまったんだろう、と首を傾げる。
今までこーんなちびっこかったのが突然と大きくなって、息がかかるくらいほんの目と鼻の先に顔があれば、驚くのは当然かとも思う。
黒い髪も鼻傷も同じなのに、ただ大きくなったというだけでなんだか違って見える。俺は呆然と眺めた。
「どうですか?魔法はてんで駄目だけど、これぐらいなら大丈夫です。任せてください」
イルカは自慢げに胸を叩いた。
「カカシさんとおそろいです」
イルカは着ている忍服を見せるため、嬉しそうにくるりと回ってみせた。
それはただの制服で、そこらを歩けば皆おそろいだったが、あまりにも嬉しそうだったためそれを言うのは躊躇われた。
しかし、俺が着ているものを模倣して実際の服にするなんて、チャーシューを出すよりも高度な魔法じゃないのか?と思う。イルカにとってはこれは何の変哲もないことのようだ。魔法ですらないらしい。
改めてじっくりと眺めたが、どこからどう見ても中忍にしか見えなかった。完璧だった。
イルカは意外と優秀なのかもしれない。今までは見た目に騙されていたが。慰めに言った力が入りすぎ云々も、あながち見当はずれではないのかもしれない。
「ちゃんとした忍びに見えるよ」
「本当ですか!」
今まで失敗ばかりだったので、ちょっと誉めただけでものすごく嬉しそうだ。
「こっちは燃費が悪いんですけどね」
えへへ、と照れている。
「だから荷物はちゃんと受け取っておきますから、安心してください」
イルカはそう言って、ぼふんという音を立てて元の姿に戻った。
はっと気づけばもう行かねばならない時間だった。頭を軽く振り、頬を叩く。
「じゃあ、行ってくるね」
「はい、いってらっしゃい」
外に出てから部屋の窓を振り返ると、イルカは窓越しに小さな手を懸命にぶんぶんと振って見送っている。そして懸命なあまりガラスに手をぶつけていた。
その姿を見ると、さっきまで優秀かもしれないと思っていたのはやはり勘違いだったか、と苦笑を漏らすのだった。


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2005.07.16


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