「もしかして、イルカ先生ってすごく強いですか」
「今まで負けたことはありません。ただし、目隠ししている時だけですけど」
恥ずかしそうに少し声をひそめる。
その方がよっぽどすごいことだと思うけど。
「俺より強い?」
「そんな!カカシ先生には敵いませんよ」
慌てて否定してくれるが、はっきりいって信用できない。
どの程度強いかはわからないけれど、少なくとも俺が攻撃しても避けられるはずだ。
そこまで考えて、どうしても試してみたくなった。ずっと考えていたことを。
今まで、中忍ならば自分の意志に関係なく避けられないと思っていたため、踏み切れなかった。 しかし、目隠しをして反応が俊敏になっている今ならば、きっと大丈夫なはずだ。
「イルカ先生、あなたが好きです。今すぐ、あなたの答えをください」
「え」
「俺は卑怯なので、こんな方法しかとれなくてごめんなさい。嫌だったら突き飛ばして逃げてくださいね」
だって、その唇から否定の言葉が吐かれたら耐えられない。
きっと生きていけない。
だから。
肩に軽く手を置いて、ゆっくりと顔を近づけていく。
何をしようとしているか、気配だけでわかるはず。
どうしても嫌だったら逃げてくれたらいい。
そうしたら、諦めることはできないかもしれないけど、もう表だって好きだと告白したりはしないから。
「好き。好きなんです。信じてください」
唇が重なる直前に、もう一度囁いた。
どうか、俺のことを好きになって。
唇に何かが触れた感触があったとき、眩暈がして倒れるかと思った。
自分の震えが感染したかのように震える唇を感じて、泣きそうになった。
そっと触れるだけのキス。
そんな子供のままごとのような口づけだけでも、心臓が早鐘のように脈打つ。
「イルカ先生は、俺のこと好きですか」
しんと静まりかえった沈黙は、永遠に続くかと思われた。
けれど、しばらくの後、小さな声でぎこちなく『はい』と答えが返ってきた。
「本当に?」
「本当ですよ」
「だって今まで相手にしてくれなかったじゃないですか」
「それは……なんだか信じられなくて」
口ごもる様を眺めて、少し満足感を覚えた。
「じゃあ、今は信じられるってことですね」
そう言うと、どうしようかと悩むように沈黙した後、微かに頷いた。
「では、晴れて相思相愛になったということで、今から恋人同士ですね!」
「…こっ」
「でしょう?」
「そうなりますか」
「そうなります」
断言すると、渋々ながらその事実は受け入れられたようだった。
ああ、なんという幸運。
これからはずっと一緒にいられる。
望外の喜びに、足が地面に着かない気分だ。
「里へ帰りましょうか」
「はい」
まだ包帯をしたままであるのを見て、恋人になって初めてのわがままを言ってみる。
「目隠し、取りませんか?」
「不都合はないですけど」
「取らないと、足元が危ないから手を繋いじゃいますよ」
「えっ」
慌てて包帯を外しだす姿はちょっと傷ついた。
けれど、包帯の中から現れた素顔に安堵したのも事実だ。
生き生きとした瞳が露わになり、柔らかく微笑む優しい顔。
やはり先ほどの包帯は痛々しくて、知らず知らずのうちに胸を締めつけられた。
こんなものをずっとつけていなければならなかった暗部など、早く辞めてくれて良かった。
「あっ。イルカ先生が暗部を引退したのは三年前でしたよね」
「はい」
「暗部を辞めたのって、もしかしてナルトの担任になるため!?」
「暗部の任務が苦痛だったのもありますが、ナルトの担任をみんなが嫌がっていると聞いて、どうしても自分がやりたくなったんです」
どうして暗部に在籍していて、ここまで心が真っ直ぐで優しくあれるのか、不思議だ。
そんな奇跡のような人だから、心惹かれてやまないのだ、とも思う。
「ナルトが羨ましいな」
「ナルトとあなたとは違います」
その言葉だけで嬉しかった。
ナルトは特別だけど、俺も別の意味で特別だという意味だから。
「ねえ、イルカ先生。キスするときは目をつぶってね」
不安だから。
本当に嫌がることはしたくないから。
それがあなた自身の意志だと確認したいから。
そんな自分の気持ちをゆっくりと伝えた。
「はい」
俺のわがままに少し苦笑した後、近づく恋人の顔を前に彼は両目を閉じた。


END
→続編
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2002.12.07


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