【目を開けて見るものは】
「そして彼は両目を閉じる」の続編です。


どうしても人手が足りないからと駆り出された任務は、難航していた。
抜忍が集まって出来た集団を殲滅する。その困難は並大抵ではなかった。
以前の大がかりなものとは違って、少数精鋭の、暗部の中でも隊長クラスばかりを集めたメンバーだった。
まだアカデミーの仕事が残っているのに。
急な任務だったから、同僚達には迷惑をかけてしまったな。
木の葉丸達はちゃんと授業を受けているだろうか。
今現在の状況とは懸け離れたことに想いを馳せていたときだった。
「その白狐の面。木の葉の暗部だな」
目の前に現れたのは、黒ずくめの男。
その身体から漏れ出るチャクラから、そうとうな手練れだと推測する。
迂闊だった。
周囲に味方は一人もいない。助けを呼ぶことも出来ない。
唯一の救いは、相手も一人きりということだけだった。
「俺達は木の葉なんぞに負けん。勝つのは俺達だ、絶対にな」
その口調からピンときた。
集団を率いている人間はこの男だと。
「生かして帰すわけにはいかん」
それが合図のように絶え間ない攻撃が襲う。
さすが敵の首領だけあって強い。油断すればすぐ間近に迫った死に神に連れていかれるだろう。
必死に応戦する。
空気を切る音。
はっと気づいたときには、面は割れ、目を覆っていた包帯は切り裂かれていた。
目の前に広がるのは、鬼気迫った敵の顔。
駄目だと思った。目が見えてしまったら、もう怖くて足が動かない。立ち竦んでしまうしかない。
人を傷つけるのが怖い。人を殺すのが怖い。
人が苦しむ姿は見たくない。
想像するだけで足が竦んで、攻撃などできる余裕なんてなかった。
自分はここで死ぬんだ。
もう逃げることすら叶わない。もう……

『イルカ先生』

そのとき頭の中に響いたその声は。

『イルカ先生。早く帰ってきてくださいね。怪我したら駄目ですよ』

「カカシ先生……」
出がけに言われた声が甦ってくる。
帰らなきゃ。
無事里まで辿り着かなきゃ。
そうしないときっとあの人は泣いてしまう。
自惚れだと言われるかもしれないけれど、きっと泣くだろう。
それだけは嫌なんだ。
今自分が死のうがどうなろうが本当はどうでもいいけれど、あの人が悲しむのは嫌だ。
それを避けるためならば、たとえどんな卑怯で非道なことだってやってしまえるんだ。
そう思った。


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