イルカ先生が恋人同士だと周りに宣言してから、数カ月が過ぎた。
何事もなく平穏な日々だった。
そんな時だった、あの波の国の任務があったのは。
霧隠れの抜け忍の二人は死んでしまったが、忍びの定めとしてそれは仕方のないことだ。
長年忍びをやっていれば、こんなやりきれないことも多々ある。
それでも墓で静かに眠っていることを考えればまだいい方だ、と俺は思っている。
だからそのことについてはあまり考えないようにしていた。
里が近づくにつれ、もうすぐイルカ先生に会えるんだと思い至る。
チャクラ切れで寝ているしかなかった時も、子供達を必ず守ると思っていた時も、いつも思い浮かぶのはあの人の顔だった。早く会いたいと何度願ったことだろう。
もうすぐ会えるのだと思うと心が浮き立つ。
帰り道はみんな足を早めがちだった。もちろん、行きはタズナさんを連れていたということを差し引いても、何倍もの早さで里に帰り着いた。
里の正面にある大門で解散にする。
「早くお家に帰って休みたーい!」
「サクラ、気をつけて帰れよー」
「はーい」
「サスケもお疲れ」
「ウス」
皆ちりぢりに自分の家へと帰っていく。
そのとき、ナルトがまだそこに立っているのに気づいた。
「ナルトはイルカ先生のところか?」
そう聞いたのは、ナルトが会いに行くなら一緒に行こうか、それともナルトが家に帰るまで待とうか少し悩んだからだ。
「俺、行かない」
「どうして」
意外な返事だった。
何を差し置いても会いに行くだろうと思っていた。
「だって……イルカ先生ってウサギが死んだくらいでも泣くのに。今は行けない」
アカデミーで飼っていたウサギが死んだときに、ボロボロ泣いたという。
そんな人の側に今は行けないのだ、と。
今はまだあの二人の死を引きずっていて、会ったら話さずにはいられないから。
小さい子供がそんなことを言う。
そう言われたら、もう怖くて足が竦んでしまった。
何を子供みたいにと、笑い飛ばそうとしても駄目だった。
俺は今までだって何人も人を殺してきたし、そんなことをわざわざ口に出すほど馬鹿じゃない。
イルカ先生に会っても黙っていればすむ話だ。
それなのに。
結局、あれほど楽しみにしていた里に帰ってきても、少しも楽しくなかった。
理由はわかっている。
イルカ先生に会いに行けなくなってしまったからだ。


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