【ボディブローの恋6】

結局、里に帰ってきてからしばらく経つのに、イルカ先生にはまだ会っていない。
もしかしたら、自分でも気づかないうちに身体に血の匂いが染みついていて、会った途端嫌な顔をされたらどうしようとか。たとえ自分が言わなかったとしても、いずれナルトか誰かから伝わってしまって、「子供を殺す人は嫌いです」ともう会ってもらえなくなったらどうしようとか。
そんなわけのわからない不安でいっぱいになって顔を見に行くこともできない。
けれど、以前は毎日のように会っていたものだから、毎日イルカ先生の顔を見ないと気がすまなくなっている。
それができないものだから、四六時中イライラしたり、ボーッと何も手が付かなくなったり。欲求不満は今にも爆発しそうになっていた。
受付で偶然に会ったことが一度だけあったけど、「ナルトの奴、仲間とうまくやれてますか?」と聞かれて心底ガッカリした。
俺はこんなにも会いたいと思っても会いに行けなくて苦しんでいるのに、イルカ先生はナルトのことしか頭にないなんて。
それでも久々に目の前の笑顔を見たら、嬉しくなってしまう。
どうしようもない矛盾を抱えながら、思わず笑みが漏れて、イルカ先生に微笑み返した。
ああ。やっぱりイルカ先生と一緒にいられるのはすごくいい。
幸せな気分になる。
そうこうしているうちに、教師陣全員が招集され、中忍試験推薦について問われることになった。
俺はもちろん最初から推薦するつもりだった。
ナルト達はまだ頼りないところはあるけれど、芯がしっかりした子達だから、これから実戦で経験を積んでいけばいい。それには中忍試験は絶好の機会だと思っていた。
それなのに。
「ナルトはアナタとは違う!アナタはあの子達をつぶす気ですか!?」
そう言われてショックだった。
そんな、俺だってナルト達が可愛くないわけがない。自分なりによかれと思って行動している。
でもイルカ先生は俺をそういう風に見ているんだ。
ずっと会えなくて、寂しくてつまらない日々を送っていた不満やなんかが溜まっていて、それが押さえられなくなる。
思ってもない言葉はどうしようもなく口から滑り出していくのに。
寂しかったとか、会いたかったとか、肝心な言葉は出てこない。
ナルトのことばっかり言わないで欲しい。
ちゃんと俺のことを見て、話を聞いて欲しい。
何もかも全てがもどかしくてイライラする。
「……今は……私の部下です」
キッと睨まれるのを眺めながら、こういうのを『泣きっ面にハチ』って言うんだ。
そう思った。


●next●
●back●


●Menu●