【ボディブローの恋5】

ある日、イルカ先生の仕事がまだ終わらないから、仕方がないので控え室で待つことにした。
だって一緒に歩いて帰った方が楽しいから。
早く終わればいいのになぁと思いながらぼんやりしていると、アスマが声をかけてきた。
「よお。結局あの後付き合うことになったんだって?」
「ああ、そうなんだ」
「そりゃまあ、よかった」
そういえば、あの時アスマが何も言わなければあのままだったのだ。
もしかしたら感謝しなければならないかもしれない。
あのまま俺とイルカ先生が恋人同志と名乗ることもなく、もしかしてイルカ先生はあの女と付き合っていたかもしれない。そう思うとぞっとする。
だってそんなことは考えられないほど、今の生活は楽しい。
「あん時はどうなることかと心配してたが、相思相愛でよかったじゃねぇか」
とアスマが言った。
それはちょっと違う。
俺はただイルカ先生と楽しく過ごしたいだけなんだ。
一緒に過ごす楽しい時間を誰にも邪魔されたくないだけ。
「イルカ先生は好きだけど、そういう『好き』じゃないよ」
「だってお前ら付き合ってんだろーが」
アスマがひょいと眉を上げて抗議してくる。
「表向きはそういうことになってるんだ」
ずっと一緒にいたいが為の周りへの名目。
今までの経緯を説明すると、俺のことを奇妙なものを見るような視線を向けてきた。
そのままずっと沈黙している。
なんか居心地が悪いなと思い始めた頃、口からふーっと煙草の煙を吐き出した。
「お前、多分自分が思ってる以上に馬鹿だと思うぞ」
「なんだよ、それ」
訳の分からない言葉に抗議すると、呆れたような顔をした。
そして頭をガリガリと掻いている。
「そういや、付き合う条件は『二人のどちらかに本気で好きな人ができるまで』だったな」
「ああ」
「ふーん。カカシ。お前、後で痛い目見るぞ」
「痛い目ってなんだよ」
「痛い目は痛い目さ。まあ、楽しみにしてるこった」
じゃあな、と手を振って立ち去った。
まったくあいつの言うことは訳が分からない。
まあいい。
もうそろそろイルカ先生の仕事も終わっている頃だろう。
わからないことをグダグダ考えるよりも、一緒に帰って飯を食った方が楽しいに決まっている。
実際、その日の会話はしばらくの間思い出しもしなかったのだった。


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